キリンビール株式会社様

たった4日で組織が変わる!最強のチームづくり

実践「チームで現場力向上プログラム」

キリンビール株式会社首都圏流通部流通第2部の事例

「チームの結束力、互いの協力、そして自分のチームだけではなく他のチームとの関係でも個々のメンバーの違いに対する意識、理解、尊重に向上が見られたとき、チームコーチングのプログラムは成果を作ったと言える」

キリンビール 首都圏流通2部へのインタビュー(2010・12・7)

≪出席者≫
橋本 岩男 (首都圏流通部 流通2部 部長)
斉藤 賢一 (首都圏流通部 流通2部 担当部長)
青田 洋 (首都圏流通部 流通2部 担当部長)
鈴木 彩 (首都圏流通部 流通2部 主任)
山下 勉 (本社営業部)

キリンビール株式会社首都圏流通部流通第2部に「チームで現場力向上プログラム」が導入されたのは2008年の10月後半のこと。当初の参加者は部長の橋本岩男を筆頭に総勢14名。組織構成は全体を統括する橋本の下に3つのラインがある。兼任の橋本岩男、斉藤賢一、青田洋の3名がそれぞれのチームを担当している。鈴木彩は斉藤チームのメンバーである。
尚、このケースのチームコーチはチームコーチング協会のチームコーチではありません。

キリンビール「チームで現場力向上プログラム」セッションⅠ:初日

セッションの流れ: プログラムの目的と日程について参加者全員の同意 → 基本的なルールの設定 → 参加者のあり方に関する要素を提示 → 首都圏流通部の現状に関する事実の洗い出し → 現状の背景にある本質の探究

斉藤: チームコーチングを受けているといろいろな気づきがあります。あっ!とメンバーの目が輝く瞬間がある。今まで仕事をしてきた中で僕にはそういう経験がなかったのです。会議の中で何度か、これだ!という灯がともる瞬間が何回かありました。

鈴木: 最初に目が輝いたのは、最初は悔しさから来る眼の光だった。チームコーチの指摘に悔しいと思った。
ミーティングを何時まで終わらせると全員で合意して取り組むのですが、その決めた時間が守れない。制限時間までにまとまらない。そういうことが何度もあったのです。「自分が決めた時間を守れないのですか」とコーチから厳しく指摘されました。「これがあなたたちの現状です!」と言われて、皆、シーンとしてしまいました。
1日目で私たちはチームとして機能していなかったということを全員が認めざるを得なかった。それが事実だったのです。最悪の状態を全員が認めざるを得なくなった。それを認めたことでチームになり始めたと思います。

斉藤: 当たり前だと思っていたことが出来ていなかったという事実に出会いました。たとえば首都圏流通部のビジョンがあって、年始から掲げられている。毎月の会議でも出てきて、頭では分かっていたつもりでした。でも実際探求していったら、そのビジョンそのものにコミットしていなかったという事実が浮き彫りになっていったのです。

鈴木: たまたまその日の夜は全メンバーが集まる初めての飲み会が予定されていました。その前に4人が異動してきて最初の懇親会という設定でした。普通ならば楽しい会になるはずだったのですが、・・・。ちょうどこの2日間は全員が集まるし、歓迎会をするにはちょうどいいじゃないかという感じだった。でも楽しい会にはならなかった。誰もが口を開けばこの日の体験のことばかり。がっかりしたんですよね。こんなにひどいチームだと思っていなかったので、明日からどうしようかと考えこみました。とにかく悔しくて、明日は絶対に頑張ろうと皆が思って、気持ちが一つになった。翌日はなりふり構わず頑張ろうと決めました。コーチに指摘されたことのひとつひとつが的を射ていました。だから余計に悔しかった。

橋本: 私と青田は異動してきたばかりでした。実は、僕は個人的に困っていました。以前、別のチームを預かったときは、持ちあがりでリーダーになったので、こんなふうにやったらいいなと自然にアイデアが思い浮かびました。こちらに来て、ひとり一人のメンバーは優秀ですが、お互いの連携が弱いという印象を受けていたのです。それでどうしたらよいのかと悩んでいました。
青田はキリンビバレッジからの出向で、9月末に異動してきました。全員そろって10月末に飲み会をやろうということ自体おかしいと思っていました。すでに1ヶ月たっているわけですからね。それぞれの仕事はちゃんとやっているのにお互いに共有しない。会話がないままに一人二人と帰っていく。その程度のまとまりだったということです。
そこへ天の恵みです(笑)。山下さんからの「チームで現場力向上プログラム」をやってみないかという話がチャンスになりました。私たちはグループではあるけれど、まだチームとしては未熟な状態だったのです。会議で発言しないメンバーがいるような状態。グループとしてのまとまりもない。この機会を活用しない手はないと思いました。

青田: 私はキリンビバレッジからの出向です。前の職場とは文化が違うというのが最初の印象なのです。皆さんは、能力は持っている。個人個人は仕事をスパッとやっているのです。もちろん全体の目標はありますが、仕事はそれぞれが別々にやっているという状態に見えました。それぞれのメンバーは親切な人だったからこちらから聞けば教えてくれました。しかし一緒に何かに取り組んでいるという雰囲気がなかった。

鈴木: 最初のプログラムのときに、「すぐに出来ることを皆で始めましょう」とコーチに呼びかけられて、ルールを作ったのです。そこで「出社したら、あるいは帰社したら全員にひと声をかける」ということが提案されるくらいに、今まではそれぞれが自分の仕事のことだけで頭がいっぱいでお互いに挨拶を交わすことすらしていなかった。そんなことがルールに上げられるくらいに会話がなかったのです。

斉藤: 首都圏流通部は、お得意先企業ごとに担当を決めている部署なので、メンバーは自分の担当するお得意先企業に対しては深くかかわっており、精通している反面、担当していないお得意先企業についてはかかわる時間がほとんどないというのが実情です。それに比べて地方では自分の担当ではない店も回る。地方では生活圏と仕事圏が同じというイメージです。ところが東京は生活圏と仕事圏はまったく違うので、一匹狼の集まりというイメージです。
私たちは東京の西半分から山梨までが担当エリアで、山梨のメンバーは帰社が夜になることも。それぞれのメンバーが専任だから情報交換もしないし、共同で取り組むこともあまりない。その代りに自分のことは自分できっちりやらないといけないという感覚だった。僕もそれにだんだん慣れてしまった。それぞれのメンバーが自分の仕事をしっかりやってさえいれば全体としては機能すると思い込んでいたのだと思います。

橋本: そういう状態を見て、私や青木さんはそれまで所属していた別の部署の文化と比べていたので違和感を持っていました。

斉藤: 僕とメンバーは日常的には電話やメールで「ホウレンソウ」をしていました。今にして思えば、それではコミュニケーションは薄かった。成果さえ出していれば問題なしという扱いでした。お互いにセルフマネジメントでやっていました。

山下: 流通部は業務に専門性が必要とされる分、往々にしてソロプレイヤーが多い。与えられた職責を果たして、その数字の足し算がチームの結果となる。そういうやり方を見て他の人もまねをするうちにソロプレイヤー集団になっていったのです。それが当たり前の職場だったのですね。
1日目は様々な角度から事実を探求して、現状を作り出している本質を見抜くところまでやりました。初めに鈴木さんが言ったようにかなりショックを受けたという体験になったようでした。前からそこにいるメンバーにとって当たり前のことが、検証していくと実は効果的ではなかった、チームとして機能していなかったという真実が明らかになりました。

キリンビール「チームで現場力向上プログラム」セッションⅠ:2日目

セッションの流れ: 体験実習 → 全員でビジョンをつくる → ビジョン実現のための目標設定 → グラウンドルールをつくる → 行動計画

山下: 2日目の午前中は体験実習を実施しました。それによって意欲と集中力と一体感を体験してもらうためでした。疑似体験ではありますが、チームとして何かを成し遂げるという体験から得た学びを実際の仕事に転写するのです。
キリンビールではチームでビジョンを掲げて、ビジョンを進化させます。ビジョンを分母にして目標を決めて、お互いにリクエストを出しあい、チームとしてうまくいくためのグラウンドルールをつくって、そこから行動計画を作るという流れになりました。

鈴木: その実習での体験が、私たちにとっては信頼関係の第一歩になったと思います。やると決めたら私たちはやれると実感しました。目標を決めるときにコーチから「本当にやりたい目標なのですか?」と質問を投げかけられましたが、自分はそういうことを考えて目標を作っていなかったことに気づかされました。

橋本: 2日目が終わったとき、私にとっては今までにない、ありえない体験でした。2日間でチームがこんなに劇的に変わるのかと信じられない思いでした。これまでは「やれ!」と上から言われる目標だった。それが、自分がやりたいという目標になる。やりたいし、やるんだという決意があって、自発的な動きにつながっていくのです。翌日からの1か月間はやりたいことに向かって動きだしました。
10月末にセッションⅠがあり、目標を決めましたが、このとき実際の定量の目標は12月の月間目標を決めました。それを達成するためのプランを作成するなどの準備をしていきました。
12月の1ヶ月に向けての活動レベルが量的にも質的にも全く違っていて、それまでとはまったく違うことを決めてやったのです。
今までは過去のやり方を踏襲した活動の繰り返しでした。しかしメンバーが主体的に考えてくれて、達成に足りない部分に何をしたら良いのかというアイデアを出して実行に移してくれました。鈴木さんもこちらが感心するようなことをしてくれましたね。

鈴木: 「のどごし生」を2倍売るというものすごい目標にコミットしましたから。12月の月間目標でしたが、これはびっくりするほどの目標。社内では「のどごし生」を略してNNと呼んでいますが、2倍を達成するということで「NN200」にコミットメントを持ったわけです。
理屈ではなく、熱意でやるしかない。ですからこちらも熱意を持ってこのくらいの数字をやりたいとあるお得先企業に言ったら、「ふざけんな!」と30分くらい店先で怒鳴られてしまいました。それでもこうやったら売れるんじゃないかと伝え続けていました。
結果的にはそれに近い数字を引き受けてくれました。それまでこんなに熱心にやったことがなかったので、その結果は嬉しかったし充実感がありました。

青田: 「のどごし生」を去年の2倍を売ろうという話になりました。でもそれは普通ではありえない。年末にどのくらい売れるのか、まだ私には知識すらなかった。しかし皆の目は燃えていて本気なのだと思いました。過去のデータから12月にはどのくらい売れているかは関係ない。去年とは比較しようがない。2倍売りたかったのです。あるチェーン店に行って話しました。これは怒られるかと思ったら、「最近はここまで言ってくる営業はいない。面白いと思ったよ」と逆に励まされました。

鈴木:やはりデータから考えてきて、自分もやってきましたが、それなりの成果しか得られません。やっぱり熱意があれば、できることがある。小さな奇跡を起こせる。そんなに一生懸命やったことがなかった。自分の殻を破った経験でした。
なかなか決断してくれないバイヤーさんと携帯電話のバッテリーが熱くなるまで熱く語り続けたこともありました。そういう行動をしていくうちに自分の限界を超えることができるんだと気づいたのです。異常値をやるためには、自分もブレイクスルーしないといけません。本当にいい体験でした。

斉藤: セッションの中で具体的に目標を決めていく段階になったとき、キリンの強い商品で勝負をしようという話になりました。それならば、「のどごし生」だと。いままでの自分たちの常識の範囲で前年度比120か、それとも130かと話していた。昨年の実績をもとに、それにどれだけ上積みできるかという視点で話し合っていました。
そんなときに山下さんが「去年の2倍やったらどうですか」とぽろっと言ったのです。
2倍と聞いた瞬間にすべての鎖が解けた感じがしました。その響きに開きを感じました。2倍売るというイメージを考えたときに楽しかった。POSならばこうだとか、売り場だったらこうだとか、そんな売り場を作れたら楽しいと色々なアイデアを分かち合い始めました。中には慎重な人もいました。実は僕もそうでした。チームとしては2倍にコミットする。でも結果的には個人の目標の差はできました。
そして「NN200」を達成するために必要なことは何だということを、お客さんを通して考えました。その思いを、僕らが感じた思いを得意先にも伝えよう。KMD(キリンマーチャンダイジング)、つまり現場の売り場を立ち上げるメンバーに思いを伝えよう。KMD会議に分担して出席して思いを伝えようと考えました。
思いを伝えるために年内は走り切りましたね。11月20日にピットインのような形でセッションⅡが入りましたが、結果としては年内で目標は達成しなかった。

キリンビール「チームで現場力向上プログラム」セッションⅡ

セッションの流れ: 現状に関する事実の洗い出し → 現状の背景にある本質の探究 → ビジョン実現、目標達成に向けた改善策 → 行動計画

山下: セッションⅡでも事実、探求、突破という基本的な流れでリードしていきました。いくつかの問題がまな板の上に乗りました。自分たちはNN200にはコミットしたけど、他のことは手放したというような自己開示的な話が出てきました。現状把握から本質的要因を掘り下げる際には時間をかけて議論する機会を作りました。またビジョンに対する自分たちのあり方を再度確認することで自分の意識や行動のパターンにも気づきが起きていきました。

鈴木: セッションⅡではセッションⅠで決めたことがちゃんと出来ているかどうかをチェックするということと、チームとして皆がどう変化したのかを確認しました。チームの変化に対してはコーチも素晴らしいと承認してくれました。「NN200」の他に目標はいくつもあって、やらなければいけないこともありました。でも下手すると忘れていたということもあり、私たちのパターンに気づかされた(笑)。セッションⅠで作成した目標計画シートを見たらやっていないことがいくつも出てきて、またやっちゃったという感じでした。

橋本: 現実的なところを見始めたという記憶があります。「NN200」は到達したいところではありましたが実際には難しいということも分かってきた。またセッションⅡではメンバーの本音が聞こえるようになってきました。こんなこともしたいというメンバーの本音が分かってきた。遠慮していて言えなかったことも言えるようになってきた。「こんなことに困っている。誰か助けてほしい」という本音も出てきた場だったかなと思います。

青木: メンバーが抱えていたものを少しずつ出していったという印象があります。お互いの理解が急に深まってきました。

田近: 「チームで現場力向上プログラム」プログラムは基本的に3ヶ月間で4日間のコーチング・セッションによってリードされるデザインですね。これには「はじまり → 中間地点 → 終わり」という流れに沿ってチームコーチングが実施されるという前提があるのだと思います。その場合、チームコーチングのはじまりのステージではしっかりとセットアップがなされてチームは任務を遂行しはじめます。通常、中間地点であるセッションⅡでは大きなブレイクスルーを起こしていく可能性があります。メンバーが実践を積んできているので、それまでの学びを生かして戦略の見直しをすることができるのです。
そして終わりのステージ、つまりセッションⅢに向かって動きを作るわけですが、このチームの場合、セッションⅡとⅢの間に期末を迎えるという変則的な日程になりました。通常ですとメンバーにとっては期末が完了のタイミングになりますから、そこでチームのコミットメントが弱くなるという問題が生じてきます。このプログラムではセッションⅢを終了してから解散というステージを迎えるのですが、皆さんはセッションⅢを迎える前に、年末時点で解散のステージに片足を突っ込んだのかも知れません。
チームというものは生き物であり、チームの内側で起きることと外側で起きることの影響を受けていきます。たとえば会社の強い支援がなければチームの効果性は発揮できませんし、異動や辞退などでメンバーが抜けたり入れ替わったりすると基本的にはチーム総合力が後退します。また隠された議題がずっと隠されたままになっていたらチームの結束力は向上しません。葛藤や対立を通してチームに成長していきます。ですからチームコーチングではマニュアル化されたリードではなく、チームの内外で実際に起きていることを使って進行していかざるを得ないのです。
一般的にセッションⅡでは課題や役割などに関する問題が表面化することもあれば、隠されたままになっている問題があったり、言いたいことがあるけど言ってないという人間関係的な問題もあったりで、葛藤が起こってきます。葛藤の裏には隠された議題がある。不満が出て、抑圧されていた問題が出てくる可能性がある。それにどう対応するかがチームの結束力を作る上で鍵になります。

鈴木: 12月が終わってしまうと私たちはどうなるのか少し不安でした。あまりにも12月の月間目標だけに特化していました。12月は通過点だと頭では分かっていましたが、そのモチベーションを維持できるのだろうか。来年のビジョンはどうなるのだろう。自分の気持ちを支えていられるかが不安でした。

齋藤: 「NN200」というお題目は確かに決まった。気持ちには火が点いたが、実を取るための具体的な行動や責任がまだ甘かったということを反省しました。そこを変え始めたのがセッションⅡだったなという印象がある。
KMDメンバーに誰が何を伝えるのか、誰が同行するのか、あるいは相談連絡をどうするのかというような具体的なことが決まっていなかった。たとえば我々が店頭(酒売場)に立って販促協力をするというように、自分たちが個人レベルですぐにできることについてはアイデアが出てきたが、お得意先の本部と相談して売りを作っていくというような組織としての動きはなかった。それを反省したのが私にとってのセッションⅡだった。

山下: このチームは潔いチームだったという印象があります。4人の女性が貢献しました。いかに困難かをリーダーの誰かが話していると、メンバーの磯田さん(現在は結婚して小笠原さん)という女性が「それってコミットしていないということじゃないですか?」なんて平気で言ってしまう。その瞬間、場の空気が止まるのですが、そこから皆がシフトしていくという場面もありました。
女性のメンバーが本気になってくると自分たちの誇りをかけてやりたい目標に一気にコミットしてきました。数字をいくつにしようかと話しているから、僕が2倍にしたらどうですかと言ったら、まずは女性たちから「それは面白い!」という反応が起きてきたのです。女性たちがシフトすると強い(笑)。チーム内に葛藤や対立がなかったわけではないのですが、しっかり話し合って最終的に合意するというプロセスを得てきました。セッションⅡではうまくいったことを承認し、うまくいかなかったことを確認して、次に進んだチームだったと認識しています。

斉藤: 女性がどのようにリーダーシップを発揮していくかは実際興味深かった。初期の段階で女性が4名いて、たまたま、女性の発言によって流れが変わったり、気づきを得たりする。方向性が変わるということはある。女性の鋭い発言によって、これって違うよなと気づかされることがありました。

橋本: セッションⅡのあと、12月に起きたことを振り返ると、体験的な達成感はありました。今までやってこなかったようなことをやったという実感はあった。成果という点では200%は出来なかったが、異常値と言われるほど今までにない成果を手にした。もちろん未達は未達です。でも目標がなかったらこの数字はなかったよねと承認しました。我々は業界の中でなんとかこれだけはやりたいんだと取り組んできました。年末のキリンビール全体の勝利に貢献するぞとコミットして動きました。自分たちがキリンビールに勝利をもたらす源になるという思いで頑張りました。しかし、2008年はキリンビールの首位奪還は叶わなかった。負けを知ったときに、女子3人がやり切れない、ここまでやったのに勝てないと、悔しいと泣けたというのです。私には仕事で悔しくて泣いたということがなかったので、彼女たちのそこまでの思いを込めた体験がすごいなと思いました。

鈴木: 12月はそれぞれがむしゃらにやっていた。情報も共有されていて、こんなに毎日成果が出てくるのだからこのまま行けるのではと思ってまた頑張る。年末の最終日までも、店頭で立ち売りして、今日は店頭では「のどごし生」のほうが売れていたとか言っていた。でも、フタをあけてみると負けていた。
信じられない!間違っているんじゃないの!負けを知った日には、このまま家に帰れないと思いました。たまたま3人の活動エリアが近かったので、その中継点である吉祥寺のキリンシティに集まって飲みました。言いたいことを言い合って飲みました。
同時に終わってしまってさみしくなりました。どうしても気持ちを切り替えられなかった。来年はどうしたら良いのか、漠然とした不安があった。口には出さなかったけれど、それぞれが同じ思いを抱えていたのだろうなと思います。話しても解決しなくて、もやもやした気持ちのままでした。
12月はチームとしてまとまった。すごく生産的なチームになれた。でも結果が出たら勢いが止まって、グループとして蛇行してしまいました。みごと落ちるところまで落ちちゃったという感じがしました。自分はこんなことができたんじゃないか、あの人がもっとこうすれば、というような後ろ向きの気持ちが出てきました。でもみんなのことは好きだし、どうすればいいんだろうって悩みました。

橋本: 燃え尽き感があったのですね。新たな目標に向かって、なかなかリセットできない。遮二無二やって負けちゃったよね、次はどうしようという気持ちの揺れ動きがあった。
皆の中にあったのは、このモチベーションの維持は難しいという懸念。高い目標に向かってチーム一丸となってやっていくことは大事だと分かっていました。でもまだこの時点では来年はどうするかが決まっていないわけです。トップメッセージがまだ自分たちはこうするんだという具体的なところまで、年初時点では落とし込まれていない。リセットできないままにセッションⅢに臨みました。そういう意味では気持ちが解散のステージに入っていたのかも知れません。

青田: 「NN200」は首都圏を通して全国に貢献したいという強い思いを込めていました。首都圏を通して全国に貢献したい。でも負けてしまったことで心に重荷がありました。

斉藤: あれは、僕自身の仕事観を変えた体験だった。これで負けちゃったんだ。やっぱり簡単には勝たしてくれない相手だなという思いがありました。チームとして意気消沈状態になりました。僕は、個人的に年初のプレゼンの準備などやることがたくさんあって、せかせかとやっていたところに負けたという情報が入ってきました。頑張ってくれたメンバーのことを思い浮かべたり、女性メンバー達が悔し涙を流したという話を聞いたりしているうちに、僕の中でも悔しいという思いが強くなっていくのを実感しました。
彼女たちの気持ちを分かって、「来年は絶対お前たちを泣かさない」という強い気持ちが出てきました。そういう体験が自分の仕事観に影響を与えた。メンバーの笑顔を見たいというのが、今の僕を支えている価値観になりました。

キリンビール「チームで現場力向上プログラム」セッションⅢ

セッションの流れ: 現状に関する事実の洗い出し → 現状の背景にある本質の探究 → プロセス全体を通しての成果の確認 → 更なる継続と拡張のための目標設定 → 行動計画

山下: セッションⅢは年明けの1月20日でした。最初に事実からの探求のプロセスをやって、リスタートのセットアップという流れ。事実を振り返り、学びの場を提供することで全体を完了させるという意図です。

橋本: セッションⅠからⅢの経験を振り返る時間がありました。出来なかったことだけではなく、やれたことがたくさんあった。書き出したことがいっぱいあった。数字だけではなくいろいろな体験や学びがあったことをあらためて発見しました。

鈴木: 負けたとわかって、燃え尽きた状態でセッションⅢをむかえましたが、セッションⅢで私はすっきりしました。すべては出だしが遅かったんだということが腹に落ちました。3ヶ月は確かにやった。それは認めてもいい。では1月から9月まではチームとして何をやったのか。チームとしてはやっていなかったよね。あっさり認めることができました。
そうしたら今年は1年を通してやれるチャンスがあるじゃないかと気持ちが切り替わっていきました。今度はモチベーションを1年通して持ち続けることができるのか。本当に気持ちを維持できるのかということを考えざるを得なかった。年間通しての「NN200」は目標とは違うだろう。何回かの目標に分けなければいけない。いろいろなことを考えなければいけなかった。そう意味ではいいリスタートになったと思います。

斉藤: チームとしての実績は残せた。やれたという体験もあった。でもあれを毎月やるのかといったら難しい。だからモチベーションの維持が課題になりました。節目で山を作っていこう。春と夏と秋の山を。前もって準備をしようという話になりました。とりあえず、第一四半期の山がある。

橋本: リスタートを準備するに当たって、皆で「NN200」を決めたときの体験があまりにもすごかったので、そのときのことを基準にしている自分がいた。目標は掲げても、あのときと同じような高揚感がほしいと思っている自分がいた。再びチームビルディングの実習をしても、あのときのレベルにならない。あのときの高揚感をどうやってもう一度つくったらいいのかなという悩みがある。

斉藤: 「チームで現場力向上プログラム」に取り組んでいるとき、ぱっと灯がともる体験が何度かあった。その瞬間が大きなチャンスなのだと思います。そのときにリーダーから何かがあるともっと良いのかなと感じました。それぞれの担当部長がリーダーとして具体的に影響を与えていくスキルや能力を磨かないといけないのでしょうね。

橋本: このプロセスを経て、メンバーが求めているものが高くなっていると感じました。「NN200」のときは未熟な集団でやっていた。それなりの力でやっていた。それを経て、一人ひとりが成長したということが分かる。

斉藤: 個人的な話ですが、目標は達成できなかったけれど、出来たことに関しては継続してやろうと決めました。それまではなかなかメンバーと話す機会がなかったが、これからは毎日メンバーと話をしようとか、メンバーの営業に同行しようとか、自分から関わっていこうと決めました。自分が本来やるべきことをきちんとやっていこう、継続してやろうと決めました。
リーダー会議で話し合って、仕組みとして若干変わったことは、ある程度の集約作業、これは内勤業務になりますが、リーダーがやっていこうということになりました。必要なことはメンバーと話し合いますが、彼らにはもっと外で動いてもらおうと。だから入力のような作業をリーダーがやって、リーダー間で情報を共有しようということにしたのです。仕組みの変化として起きたことの一例です。

キリンビール「チームで現場力向上プログラム」から始まる

セルフコーチング・チームへの道

斉藤: 2009年末には9年ぶりのキリンビール首位奪還とマスコミは大きく報道しました。メンバー全員で飲みました。ただ僅差の勝利だったので、うれしいというよりは厳しいという思いを持ちながら。甘くないということは充分に分かっていました。

橋本: 首都圏流通部では四半期に一度は半日から1日のミーティングをやっています。リーダーたちで定期的なミーティングをしていく中で、次のステップに向かっていくときの葛藤への対処が変わってきました。お互いのコミュニケーションも変わってきました。メンバーたちがすごく成長してきていて、求められていることが変わってきていると感じます。お互いが心にためずに言い合える関係になっているので、本音も伝えている。耳に痛いときもあるけれど、これは進化するために大事なプロセスなのだろうなと思っていますね。目標に行かなくて悩んでいるときにも、もっとこうしたらいいというアイデアをお互いに出し合っています。
今まではどこかにこの異常値は無理だよねっていうのがあった。異常値へのトライは楽しいよね、実際の達成は無理にしても、という逃げ道があったと思う。今までは逃げ道、言い訳のスペースがあったが、だんだんと狭められてきていて、自分たちで決めた目標だからやろうという気持ちが強くなっています。

斉藤: ラインチームが3つありますが、ラインの中でも異動があります。そのたびにお互いを紹介しあう場を彼女たちが作ってくれたり、担当企業を紹介し合ったりということがあった。彼女の発案で自己紹介ゲームをやった。仕事を進める上でお互いを理解し合うことの大切さを学んだことを生かしてくれています。
ラインのリーダー同士は今までもミーティングをしてきましたが、ラインのチームを超えてメンバー同士もお互いも理解する。お互いにチームではこんなことをやっているよという情報交換もするようになっています。

鈴木: 目標の作り方が変わってきたと感じます。そこにチームとしての成熟を感じました。「NN200」のあとで、3~4回は同じように異常値を目標に掲げました。ワクワクする目標を。ところがことごとく達成しない。立てた段階ではワクワクはするが、なかなか達成しない。チームとしてはまとまったけれど。いい経験はしたけれど一言で言えば達成はしなかったよねということになっていました。
ピットインの会議で2010年の新ジャンルの年間の合計目標を達成するために引き算すると年末に向けて150やらなければいけないという話になったとき、今までならばただ達成に向けて走っちゃったと思う。でも、「今回は目標を達成しないとチームとして成長しないよね」という会話が出てきました。今までならば出てこなかった会話だった。
このまま走っても達成は無理だと。目標を下げることに抵抗も起きました。でも今回は華やかさよりは地味でも確実に行こうと決めました。これはチームとして成熟したからできたことだと私は感動しました。
また同じ会議の中で出てきた議題として、私たちはルーチンワークがなかなかできなかったが、それができていくことは大事だということがありました。それは数字には表れない。でも本来はできて当たり前だと。地道にやっていくことが大事だという認識を共有することができました。

橋本: この秋の目標が未達成で、達成を味わいたいねという意見が出てきて、それならば達成を体験しようと。ずっと異常値活動をやってきて、リーダーに求めていることやメンバーに求めていることが変化してきたと思います。まだまだ自分たちが進化していかなければいけない。自分たちで「チームで現場力向上プログラム」的な動きを起こしていかなければいけない。それにはまだまだ課題がたくさんありますね。自分自身がもっと成長しないといけないなと思います。

鈴木: ここに来て、ラインリーダーだった石塚さんが異動になり、小笠原さんは産休に入って、ピットインでキーとなってくれたメンバーがいなくなった。そして新しいメンバーが入ってきている。ここは踏ん張りどきだと思いました。
「チームで現場力向上プログラム」のときに撮影した写真を見て、新しく異動で転入してきた入社2年目の新人女性の榎本さんが「これに自分も加わりたい」と言ってくれました。とてもうれしかった。魅力的なチームワークだと思ってくれたということですから。そういう意味で、あのような機会を設けてくれたことに感謝しています。

橋本: 「チームで現場力向上プログラム」を実施してから2年が経過しました。チームの成長という観点では今はどういう段階かな。チームを客観的に見ると、スタートアップのときと比べると半分近く、4~5人は変わっている。メンバーが交代するとチームの後退が起きる。期末を迎えると一度完了してチームは解散状態になるということなので、すでに何度も前進と後退を繰り返したのかな。
チームを預かって2年を超えました。甘い評価かも知れませんが、現時点での自分のチームはグループとしての最高峰の状態かなと思いました。生産的で高度なレベルのチームにするために何ができるのかを模索していかなければいけませんね。

斉藤: 僕も橋本さんと同じことを思っていました。確かに何でも話せて居心地がいい。当時は部としてのまとまりがなくて、メンバーはバラバラにそれぞれの仕事をこなしていたような状態でした。そこをひとつにしたいという気持ちが僕にはありました。「チームで現場力向上プログラム」に取り組んだ結果としてメンバーの一体感が作られました。離れていても常に一緒にいるという感覚はできた。しかし目標として決めたものを達成できていない。成果がついてきていない部分もあるので、まだ強いチームではないと自覚しないといけない。

「個人であれチームであれ、コーチングを受けている人々が本当に成長するのは彼らに力が授けられたときだ。人間関係における力は2つの要因に基づいている。最初の要因は誰がゴールを所有しているか、そして2番目に誰がプロセスを所有しているかだ。権能を与えるコーチングはクライアントとともに行われるのであって、クライアントに対してするのではない。だからコーチングのプロセスとテクニックを説明すること、クライアントがそれらを使うことの同意を得ること、そしてコーチングの対話の中だけでなくコーチ不在の時にはセルフコーチングの形式でこれらのプロセスをどのように統御するかをクライアントに教えることはとても重要なのだ」


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