コラムNo.8 「コンフリクト・マネジメント:葛藤を乗り越えてチームになる」

あなたは職場で他の人々と長時間にわたって一緒に過ごしているとき、どのくらい平穏な気持ちを維持できますか。

多くの人間関係は内側に不満や不安を抱えた状態のようです。家族のような身近な関係では葛藤の嵐の中に出たり入ったりを繰り返しているのではないでしょうか。複数の人間がしばらく一緒に過ごしたらコンフリクト(葛藤や対立)が生じてきます。それが普通です。
しかし多くの人々は、「対立してはいけない」とか「葛藤は時間が解決してくれる」というビリーフ(観念、信じ込み)を持っているので、葛藤や対立をマネジメントしようという発想にはなりません。隠したり、見て見ぬふりをしたり、対処することを避けようとしがちです。
コンフリクトについての一般的な誤解は、「対立は悪いものだ」という考えです。しかしチームに葛藤が起きなかったら、それこそ問題です。チーム形成のプロセスが遅れているというサインなのですから。

ところで葛藤という心理的な反応はどうして起きてくるのでしょうか。
それは他のメンバーの反応や言動が自分になんらかの害を与えると思うからです。そして対立感情は自分のビリーフにミスマッチすることから起きるネガティブな反応です。グループ内に生じる様々な状態が葛藤を助長することもあります。責任の曖昧さ、わずかなリソースの奪い合い、過剰に競争を煽るような報償システム、チーム全体の目的や目標とメンバー個人の目的との食い違い、メンバーの隠された議題、個人的な恨み、ひどいコミュニケーションなどによって起きてくる葛藤や対立はチームの後退要因にもなります。ですから取扱注意です。葛藤や対立は否定的な感情とストレスを生み出し、その結果としてコミュニケーションが阻害され、目標や課題から意識を逸らしてしまうのです。
しかし葛藤や対立にはメリットもあります。建設的な対応をすれば、チームの創造性に刺激を与えて、よりよい目標や解決策に決断を下すことが可能になります。一般的には人間関係の衝突ではなく、仕事にフォーカスしているほうが生産的です。

マネジメントは人間関係維持(メインテナンス)機能と課題達成(タスク)機能のふたつの軸によって語られることがあります。これに照らしてみると、ふたつの軸に沿ってコンフリクトが起こりえます。人間関係維持機能の面では、それぞれの個性のぶつかり合い、メンバーへの個人的な恨みや怒り、対人関係上の問題などが葛藤や対立を引き起こします。これらはチームのパフォーマンスの妨げになります。これらの人間関係の葛藤によって、嫌いな人の意見には耳を貸さなくなり、メンバーは理性的に状況に対応する能力を失い、人間関係上の問題点を話し合うことを避けようとします。とはいえ、人間関係の葛藤をオープンに議論して、グループ内で解決策を決めたとしても、それが有効だとは限りません。

さて、もうひとつの軸は課題達成機能ですが、課題に関する葛藤としては達成への期待とプレッシャー、上位者や他のメンバーからの評価、課題に関する意見の違い、何をどのように達成するかについての合意の甘さ、規律の弱さなどが要因となる場合があります。
確かにほとんどの人は他の人からの批判的評価に対してストレスを感じるものです。しかし、批判的評価を取り入れることによって集団思考に陥ることなく、よりよい決定に導かれる可能性があります。また問題点を明快に捉えて理解を深めることが出来ます。そして課題達成にある程度のプレッシャーを感じるがゆえに、革新的なアイデアを思いつくことにもなります。
課題達成機能に関連する葛藤や対立は、基本的にはチームとして何をすべきなのかについての葛藤です。しかし、この種類の葛藤は適切な対応をすればより良い決断へと導かれることになります。葛藤していることを議題にしてオープンに議論を重ねて、何をどのように達成するのかの強い合意形成に至ったチームの場合、そのメンバーは満足度も高く、そのチームへの所属欲求も高くなる傾向があります。

葛藤や対立はいくつもの要因が絡み合っていますから、課題に関する葛藤が表面化することを通して、人間関係に関する葛藤が浮き出てくるということもあります。その反対もあります。ですから課題達成を妨げている要因を扱いながらも、間接的に人間関係の葛藤が処理されていくということがありえます。そのときにメンバーが自分のことが扱われていると感じることで個人的な影響を与えることが出来ます。
チームコーチはグループのコンフリクト・マネジメントを適切にリードし、グループが葛藤や対立を超えて強いチームになるプロセスを援助します。そしてチームコーチは、コンフリクトを適切に処理する能力をメンバーに授けていく役割も担っています。

≪文責:田近秀敏≫


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