コラムNo.6 「外側への貢献」

企業業績が厳しくなってくると研修費や交際接待費、旅費交通費、通信費など、比較的簡単にできるものから経費の削減が行われる。ただし、予算自体がすでに大幅に削られたものである場合にはアイデアや創意工夫が必要になる。消耗備品費も経費削減の筆頭候補に挙げられるが、すでにいくつかのアイデアは実施済みである場合が多く、なかなか次の策が見つからないものである。

私の知るある企業では若手の女性社員の発案により、自部署で使用しなくなった中古のオフィス用品を社内イントラネットに掲載し、グループ企業内で有効活用するアイデアが行われているそうだ。期末の資料整理で不要になったリングファイルやクリアファイル、使うと思って保有していたが余っているインデックスなどを、その画像とともに色やサイズ、参考価格、数量を一覧にして掲載し、必要な部署から注文をもらうというものだ。言ってみれば、「社内中古オフィス用品市場」。自部署の経費を使わないという経費削減から、他部署の経費削減に貢献するという立ち位置の変化によってもたらされた、遊び心と目的意識のあるアイデアだ。イントラネットに掲載してすぐに注文が入るなど、アイデアは現場に受け入れられたようだ。

先日、ある製薬会社を対象に体験セミナーを実施した。対象者8名は若手から中堅、ベテランまでいるバランスの良い構成で、コミュニケーション能力の高いメンバーだった。こちらのリクエストでグループワークを行ったが、職制や年齢、性別に関係なく良好な会話がスムーズに行われていた。少し離れたところから見ていた私には、ストレスがなさ過ぎるなと思わせるくらい、軽快なグルー プワークだった。日常行われている会議や打合せも、グループワークと同様にスムーズに行われているのだろうなと思わせた。

グループワーク終了後の振り返りでは、どんな会話をしてきたのか、うまくいったこと、うまくいかなかったことなどを中心に行った。うまくいったこともうまくいかなかったことも言葉に表せることは顕在化するためには良いことだと思うし、このメンバーはそれができていた。

グループワークもその振り返りもあまりにうまくいっていたので、ここで気になっていた点をひとつ聞いてみた。「私にはストレスがなさすぎると見えたのですが。葛藤がないというか。この点はいかがですか。」若手のメンバーから出てきた発言は「言おうと思ったこともあったのですが、『やっぱりいいや』と思い直して発言せずにいました。」というものだった。

相手を傷つけまいとして発言を止めるということや、自分が傷つきたくなくて発言を止めるということはあるだろう。表向きは良好なコミュニケーションが取れているようで、実は葛藤が生まれるような発言はせずにいる。これで会議や打合せは生産的なものになるだろうか。グループの力は向上するだろうか。

メンバーの成長のために、グループの生産性向上のために、自分たちの目標達成のためにあえて発言をする。自分の意見やアイデアを外側に分け与えるという立ち位置から、外側に貢献するという意識から行動する必要があるのではないだろうか。

「社内中古オフィス用品市場」を始めた女性社員は他部署の社員からお褒めの言葉をいただいたそうだ。「いかに自部署の経費を使わないかしか考えていなかっ たけど、こういう方法もあったんですね。すばらしいと思います。」このアイデアからヒントを得てさらに新しい案が生まれていくサイクルなれば、経費削減だ けでなく目標達成に向けても良いパターンが生まれるかもしれない。

先ほどの製薬会社のグループは思ったことを言い合えるグループを目指すことを確認して今回の体験セミナーを終えた。相手のために、グループのために、そして目標達成のために思ったことを言い合えるようになったら、どんなグループになるだろうか。少ししたら、もう一度会ってみたいグループだ。

<文責:中野喬<


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