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トランプ大統領の言動にも肯定的な意図がある

その他(プロジェクト・書評など)

2025.5.12

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ワンオンワンであれ、チームコーチングであれ、コーチングが成り立つための前提のひとつとして、「どのような言動にも肯定的な意図がある」という考え方があります。
トランプ大統領の威嚇的な言動には驚くどころか困惑することが多く、世界経済の先行きが不安になりますが、「コーチングの前提」に従って、トランプ大統領の言動には「肯定的な意図がある」という立場から整理してみましょう。

肯定的な意図

「MAGA=アメリカを再び偉大にする!」はまさにトランプ大統領の肯定的な意図を現したスローガンです。トランプ大統領は大統領選挙中の公約として、主に経済政策と移民政策を掲げていました。貿易不均衡の是正のためと称して各国に関税を課すこと、米国の製造業の復活、そして不法移民の取り締まりを強調していました。国外での活動を支える莫大な防衛費や対外援助資金を抑えて、その分を国内に振り分けることでアメリカ国民にとっての偉大なるアメリカを作り出すとトランプ大統領は考えているようです。輸入品への関税、製造業の国内回帰と保護、雇用の創出、減税といった政策はアメリカの経済の再建と強化を目指すものです。それによってアメリカ国民が豊かさを享受することがトランプ大統領の描く未来像なのです。


ところで、「再び偉大にする」ということは偉大ではなくなったという前提が埋め込まれています。トランプ大統領の政策が生まれる背景はどのようなものなのでしょうか。


アメリカの状況

第二次世界大戦を契機に、イギリスに代わって世界の覇権国となったアメリカは、日本にも「核の傘」を自ら提供するなど「世界の警察」を自ら任じ、世界最強の軍事力で世界の紛争を抑えてきました。そして自由貿易の旗振り役であるアメリカは様々な輸入品を買ってドルで支払うという金銭的報酬を世界に与えていました。さらにアメリカの文化や市民社会は自由の象徴として他国民には魅力的でした。このように威嚇による強制と金銭的報酬とソフトパワーがアメリカの強さとなり、各国から「賛同」を得ることによって覇権国でいられたのです。


米国の覇権は世界最強の軍事力と機軸通貨ドルによる経済力に由来するものです。信頼されるドルで貿易決済をするのであれば他の国々は商品をアメリカで売り、ドルで支払ってもらうことが必要となります。そのためアメリカの貿易収支は赤字になるのです。それを許容してきたアメリカは気前の良い国だったと言えます。自由貿易のおかげでアメリカ人は安い商品を買い、豊かに暮らしましたが、代償として多くの製造業が他国に奪われました。その結果として、製造業の空洞化で苦境にあえぐラストベルト(赤さび地帯)の白人労働者が生まれました。この人々はトランプ大統領の熱烈支持者であり、再び製造業が復活するというミラクルを期待しているのです。


トランプ大統領はアメリカが戦後推進してきたグローバリズムと自由貿易が原因でアメリカの貿易収支と財政を大赤字にし、かつ製造業が骨抜きにされてアメリカ人の雇用を奪ったと信じています。逆に恩恵を受けた最たる国がチャイナです。今やチャイナは世界のサプライチェーンの核をなし、経済力と軍事力で覇権国アメリカを脅かす唯一の国となりました。覇権国は二番手を蹴落とすことを通して自らの地位を守ろうとしますからチャイナとの貿易戦争は深刻なものになるかもしれません。トランプ関税政策の真の標的はチャイナなのです。戦う相手がチャイナのような非同盟国であるならば理解できますが、アメリカは同盟国にも関税と国防費でかなりの要求をしてきています。


以上のような背景でトランプ大統領は「アメリカを再び偉大にする!」と叫びました。トランプ氏を大統領にしたアメリカ国民は、それが生活にプラスの変化をもたらすと期待しているわけです。ではどのようにそれを現実化しようとしているのでしょうか。肯定的な意図があっても効果的なやり方を選択しないと望ましい結果にはなりません。理想を言えば、ウィン・ウィン、あるいは三方良し、つまりエコロジカルであればものごとは進むはずです。


エコロジー・チェック

トランプ大統領の政策は、覇権国として世界最強の軍事力と機軸通貨ドルを維持しつつ、他国の資源に頼らず自国の中で生産して完結するという孤立主義でアメリカを再び偉大な国にするという矛盾を抱えたものであるように思います。


この矛盾を抱えながら、トランプ大統領はニューヨーク市の不動産開発という弱肉強食の世界で経験を積んできた「ディール」、すなわち相手を混乱させ、予測不能さを保ちながら、交渉を自分にとって有利に決着させるという手法を取っています。関税、不法移民取り締まり、カナダはアメリカの51番目の州になるべきだと暴言を吐くなどの深層にある領土と資源への執着、同盟国への国防費負担要求、ロシアに侵略されたウクライナ、イスラエルとパレスチナの紛争、環境問題への対応、世界最強ともいえるアメリカの大学への助成金の凍結などで世界を唖然とさせているのです。


EUはトランプ政権に対して強い警戒心を抱きました。投資家はあまりの不確実性に資金を株式市場から引き上げました。関税がアメリカの景気悪化とインフレ再燃を招き、アメリカ資産への逆風になると読んだからです。アメリカの同盟国でもドル不信が強まっています。緊急時にアメリカはドル供給を拒否する姿勢を見せることで相手国から譲歩を引き出すのではないかという不安が高まっています。アメリカ国債を日本の次に保有しているチャイナはゴールドを大量に購入して自国の資産価値を安定させようとしています。


トランプ大統領はメインストリート(一般国民)の生活の安心と豊かさを取り戻そうとしていますが、関税政策の前面に立って各国と交渉するトランプ政権の財務長官であるスコット・ベッセン氏はウォールストリート出身です。かつてヘッジファンドで敏腕をふるったベッセント氏は市場の不安定化を煽ったうえで落ち着きどころを探るような戦略を採用するかもしれません。しかしトランプ政権としてはアメリカ国債が売られることだけは回避したいはずです。高関税ショックでアメリカ国債、ドル、株式市場のトリプル安の憂き目にあったばかりのトランプ政権にとってアメリカ国債とドルの安定こそが最重要課題なのではないでしょうか。


先に軍事力を背景にした威嚇による強制と金銭的報酬とソフトパワーがアメリカの強さを構成し、各国から「賛同」を得るメカニズムがあったと指摘しました。それが機能しなくなっているのは誰の目にも明らかです。すでにアメリカの覇権体制は崩れ始めていたとはいえ、トランプ政権はアメリカの自壊を加速させているようにも見えます。このような状況の中で、同盟国との協調も軽視するやり方では「賛同」が得られるはずがないのです。


トランプ政権の政策に「肯定的な意図」があることは明白です。その背景にあるアメリカの覇権国としての苦悩も理解できます。しかし、トランプ政権の意図を実現する方法が「エコロジカル」ではないのです。このままだと、ルーズ・ルーズで誰も勝てない状況に陥る可能性もあるのではないでしょうか。コーチングでは「望ましい成果を手にしていないのであれば、やり方を変える」ことを推奨します。


このコラムは2025年5月9日に書いています。今後、世界が新しい秩序の構築に向けてエコロジカルな道を歩むことを期待しています。


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