コーチングの原点と未来

かつて私が高校野球の監督をしていた頃、指導とは「教えること」だと信じて疑いませんでした。練習メニューを組み、技術を伝え、ミスには叱責をする。今では考えられないような、当時の熱血高校野球の監督そのものでした。
今の時代なら、3日でクビになっていたかもしれません(笑)。
名著「インナーゲーム」との再会
実は、自分が現役だった大学3年生のときに名著『インナーゲーム』に出会っていたのですが、指導にはまったく活かせていませんでした。
そして、それから約20年の歳月が経ち、コーチングを学び直す中で再びこの本に触れ、ようやくその本質的な意味を理解することができたのです。
「コーチング」という言葉は、ハンガリーの「コチ(Kocs)」という町の馬車に由来するといわれています。「目的地まで人を運ぶ」──その語源の通り、コーチは伴走者です。
しかし当時の私は、「目的地に無理やり連れていく馬車」だったように思います。熱心な指導者ほど、「こうあらねばならない」という観念を握りしめがちです。
若者の反応から感じた「コーチング的発想の浸透」
22年前、ビジネスコーチに出会い、現在のチームコーチングに至るまでの道が始まりました。基本に立ち返って1対1のセッションを重ねる中で、最近の若い世代は「聞き分けがよく素直な人が多い」と感じています。
おそらく、先生や親、周囲の大人たちが「聞き分けのよい大人」に変化したからでしょう。
これは、まさに「クライアントが答えを持ち、無限の可能性を信じ、伴走する」というコーチング的な発想が社会に浸透してきた結果かもしれません。
優しいだけでは届かない、成長の分岐点
ただ、一つ気になることがあります。
それは、「やる人とやらない人」の差が明確になってきたということです。
承認され、励まされて主体的に動く人は大きく成長する一方で、やらない人にはほとんど成長が見られない。昔以上に、成長の格差が広がっていると感じています。
その背景には、「厳しさが足りない」現実もあるのではないでしょうか。
私自身、コーチングを学び始めた頃、「厳しさは昔の指導法」として避けがちでした。ですが、高校生たちはわずか3年間で大きく成長します。その成長には、時に厳しい関わりも必要だったと今は実感しています。
現代に合った「信じて厳しく関わる」スタイルの必要性
「厳しさ=パワハラ」ではありません。
現代に合った“信じて厳しく関わる”スタイルが必要です。
最近では、「ホワイトハラスメント」という言葉も生まれ、上司や大人が過度に気を遣いすぎて委縮しているとも聞きます。ですが、私は信じたいのです。
厳しさには、やはり成長を促す力があると。
だからこそ、正しくコーチングを理解し、活用することが大切です。
本来のコーチングとは、「寄り添い」「自ら考えさせ」「そして厳しさをもって成長を支援する」ものです。
若手育成に悩む方がいれば、ぜひ一度、コーチングを学び直してみてください。
それは、これからの時代に最も必要とされるビジネススキルのひとつだと、私は信じています。