女王復活から思い出した、パリオリンピックで感じた“本気”の源とは

パリオリンピック、女子52キロ級2回戦で敗退した阿部詩選手。
試合の進行が遅れるほどの大号泣は、賛否両論を巻き起こし、大きな話題になった。
私もリアルタイムで見ていて、最初は「トップアスリートとして、少しみっともないのでは…」と感じていた。
だが、ふと自分の高校3年生の夏、最後の大会で敗れたときのことが頭をよぎった。
悔しいとか悲しいという感情では表現できない、激しい感情がこみ上げてきた。
あれから45年経った今でも、あのとき以上の強い感情を抱いたことはない。
純粋に打ち込む者だけが知る痛み
ただひたすら、純粋に打ち込んできたものが、思い描いた形ではなく終わる――。
阿部詩選手とは比較にならないレベルではあるが、その涙に、私は妙な共感を覚えたのだった。
その後の世界選手権での「女王復活」。
忘れ物を取りに行くような彼女の姿に、私も胸をなでおろした。
阿部詩選手の涙と復活を見て、思い出したもう一つのシーンがある。
男子ゴルフだ。
東京4位からパリ銅へ――松山英樹のドラマ
東京大会では4位に終わった松山英樹選手が、今回は銅メダルを獲得。
完璧主義で感情を表に出さない彼が、終盤のプレーや表彰式で見せた感情や喜びの表情には、正直驚かされた。
金メダルを獲得したのは、当時世界ランキング1位のスコッティ・シェフラー。
彼までもが、表彰式で涙を浮かべていた。
よく考えてみてほしい。
松山選手が銅メダルを取って得た報奨金は100万円。
さらにゴルフ協会からの600万円を合わせても、総額は700万円に過ぎない。
一方で、彼らが出場する全米オープンなどのメジャー大会では、予選を通過するだけで600万円。
上位に入れば賞金は億単位にもなる。
そんな彼らが、オリンピックでは涙を見せる。
しかも、プロとして“3位”であっても、心の底から喜びを爆発させていた。
私は思った。
すべては「心が動くこと」から
あの涙と表情に宿っていたのは、「自分の外にある価値」に本気で向き合った者だけが持つ輝きだったのではないかと。
お金でも、名誉でもない。
純粋な誇りと覚悟に支えられた「本気」だった。
それはスポーツの話だよね
「ビジネスは、そんなきれいごとでは済まされないだろう?」
なんて言う大人たちの声が聞こえてきそうである
――本当にそうだろうか?
スポーツも、ビジネスも、すべては「心が動くこと」から始まる。
大人たちが、きれいごとに“本気”になる。
そんな時代が、いま確かに来ている。