トランジションの捉え方
創業28年のオーナー社長から事業を承継する経営リーダーチームの育成を依頼されました。
ここ1~2年で次の経営を任せられる社長候補が見つかったので、社長候補を中心としたチームをつくってほしいという依頼です。社長候補の方も、将来社長になることを決めて転職してきたとのことでした。オーナー社長と相思相愛といったところです。
経営リーダーチームの現状分析
社長候補を中心とした経営リーダーチームは一枚岩になるべくミーティングを重ねました。改めて会社のミッション、ビジョン、経営リーダーチームが目指す目標、そして現状分析も行いました。SWOT分析、ボトルネックがどこにあるのか、戦略の実行度、管理職のマネジメントの現状など、さまざまな角度からの検討です。
現状分析を進める中で、経営リーダーチームは創業社長一人の経営には「リスク」があることに気づきました。現在の経営を批判しているのではなく、客観的に現経営を振り返ってみると意思決定に偏りがあるように思える、あるいはその意思決定を正しいものとして何の疑問も持たずに受け取っている自分たちに気づき、この現状を「リスクがある」と捉えました。
オーナーとの衝突という「よくある現実」
2回目のミーティングが終わって数日経ち、社長候補から連絡が入りました。このミーティングが始まって以降、「オーナーと経営リーダーチームメンバーとの衝突が増えてきたので相談に乗ってほしい」というものです。
このケースを一般的に解釈すると、「オーナー社長は事業承継をする経営リーダーチームの育成を依頼し、経営リーダーチームはチームとして一枚岩となるべく取り組んでいるのに、なぜこんなことが起こるのか?」と疑問がわきますが、実はよくある話です。
別件で一枚岩会議Ⓡを行っているO社では、経営を任された3代目社長の決定や提案に対して、2代目の現会長からはまず「否定」されると言っていました。「その決定はおかしい」「この提案は的を射ていない」など、現会長自身が行ってきた経営と比較して3代目社長の経営に苦言を呈するということでしょう。
また、私が関わる他の組織では、現代表が「60歳になったら、次の代に経営を引き継ぐ」と皆の前で公言していましたが、60歳を迎えた折にはそんな話全くなかったかのように全体会議を進行していました。そして、以前にも増してマイクロマネジメントをしているということがありました。
危機をどう意味づけるかが未来をつくる
経営とはそれほど魅力的なものなのでしょう。あるいはオーナーとして手塩にかけて育ててきた会社を手放すことは悲しさや寂しさ、心許ない感じがするのでしょう。
このような会社にとってトランジション(転機)をどのように乗り越えていくかは非常に重要な経営のトピックですし、ここにはトランジションコーチングが可能なエグゼクティブコーチの存在が必要なのではないかと思います。
「中国語で危機という言葉は、ひとつは危険、もうひとつは好機という意味の文字で構成されている」アメリカの第35代大統領ジョン・F・ケネディの言葉として有名だそうですが、今回の「オーナーと経営リーダーチームメンバーとの衝突が増えてきた」状況を「危険な状況」と捉えるか「チャンス」と捉えるかで見方はまったく変わってきます。
そして「最も幸福で精神的バランスが取れた人が持っている不思議な能力は、さまざまな人生経験を自分にとって最も好ましい形で意味づける能力」(「こころのウィルス」ドナルド・ロフランド著 英治出版)と言っています。
やがて来る未来は、経営リーダーチームだけで意思決定するオーナー社長がいない世界です。会長からの苦言のない3代目社長の意思決定や提案で進んでいく経営です。その未来のためのトランジションと言えるのかもしれません。
