日本人の強みをリーダー育成につなげる
娘を学校に送迎した際の小さな感動
かつて私は時折、娘を自家用車で小学校まで送迎する機会があった。その際、校門から50メートルほど離れた交差点付近で停車し、娘を下車させる。ランドセルを背負った娘は横断歩道の手前で一旦足を止め、車両が停止したのを確認してから横断を開始する。横断後は振り向いて運転者に対して一礼する。バックミラーに映る娘のふるまいを確認しつつ、同乗する配偶者と共に幸福感を味わったものだ。
このような日常の一場面には、日本人の規律が自然に表れている。子どもの一挙一動に、社会的ルールや周囲への配慮が根付いていることを感じ取ることができる。こうした規律や礼儀は家庭や学校、社会全体で育まれており、日本人の特性として世界から注目されている。
この種の光景は、日本を訪れる外国人観光客にとっても印象的で、動画や写真としてSNS等に投稿されることが多い。「日本ならでは」というコメントとともに、信号待ちの子どもによる運転者への礼、児童生徒が安全に帰宅する様子、保育園児と教員による整然とした遠足、児童による清掃活動、授業開始前の教師への挨拶など、規律ある行動が題材となる。また、厳しい自然環境下でも公共交通機関利用時の秩序保持が強調され、「混雑下でも静粛で秩序が維持されている」といった評価も多い。これらは日本文化に内在する社会的行動規範、すなわち規律形成の証拠である。
「ディシプリン」とは何か
ハッシュタグ「#japanese」に関連する投稿には、「Japanese discipline starts at school.(日本人の規律正しさは学校から始まる)」との説明が添えられている。日本の教育現場は、規律や礼儀を重んじる文化を育む場であり、ディシプリン(discipline)という概念が根底にある。ディシプリンとは、躾(しつけ)、規律、訓練、修行を意味し、目標達成のためにルールを守り、行動を律することを指す。日本人の規律正しさは、こうした教育や家庭環境の中で自然に形成されている。
2022年のFIFAワールドカップ、カタール大会グループリーグE組最終戦で日本がスペインに勝利した際、スペインの新聞は「日本の強さはディシプリンにある」と評価した。日本代表のサッカーは統率が取れており、「戦術的規律」がチーム力の根源とされている。スポーツの現場でも、日本人の規律や団結力が高く評価されている。
アメリカで出版された新渡戸稲造の『武士道』(1899年)は日本人論の古典として知られるが、そこには「ディシプリン」という語が何度も登場する。新渡戸はベルギーの法学者から「日本の学校には宗教教育がないのか」と驚かれ、「宗教がないとは、あなた方はどのようにして子孫に道徳教育を授けるのですか?」と問われて、即答できなかった。彼は思考を重ねて武士道こそが善悪の観念を吹き込んだことに気づいた。
「武士道」の中で、「茶の湯は儀式以上のものである。それは芸術である。それは詩であり、リズムを作っている理路整然とした動作である。それは精神修養(ディシプリン)の実践方式である。」と茶道を説明し、サムライのことを「彼らは学問が目指すものの体現者であり、鍛錬(ディシプリン)に鍛錬を重ねる自制心の生きた手本であった」と紹介している。こうした規律は家庭・学校・社会の多層的ネットワークを通じて育まれ、日本独自の文化的特性として世界から注目されている。
「ディシプリン」を人材育成の中核に置いてみよう
私たちは企業でチームコーチングメソッド「一枚岩会議Ⓡ」をリードする際、チームビルディングの要点として「決めることに責任を取ること」「決めたことを実行することに責任を取ること」を重視している。チームコーチングは組織能力の開発を通して目覚ましい成果を生み出すが、究極のリーダー開発であるともいえる。
日本人の規律や責任感は、家庭や学校、社会の中で日常的に培われてきた。こうした資質は、ビジネスや組織運営、チーム活動においても大きな力を発揮する。決めたことをきちんと守り、責任を持って行動する姿勢は、信頼されるリーダーを育てる基盤となる。
また、集団の中で協調し、秩序を保つことは、日本人ならではの強みであり、組織の力を最大限に引き出す要素となる。規律正しさや礼儀、責任感は、リーダーが組織の価値観を体現し、メンバーに模範を示すために不可欠である。
幼少期から培われた日本人の強みをリーダー育成につなげることで、組織の力を最大限に引き出し、社会の発展にも寄与できるはずである。 日常生活やスポーツ、歴史的背景から見える日本人の規律は、組織におけるリーダー育成にも活用できる。社会の中で培われた規律や責任感は、現代のビジネスやチーム運営においても、信頼されるリーダーを生み出す基盤となるだろう。日本人の強みをリーダー育成につなげることで、組織の力を最大限に引き出すことができるのである。
