組織が陥りやすい罠~一生懸命に受け身

「なんのために働いていますか?」
働く目的を訊くこの問いに、あなたはどのように答えるでしょうか。私のこれまでの経験では、答えを明確にしないまま、働くのが当たり前であるかのように仕事をしている人がとても多いように思います。
企業理念が示す「働く目的」
どの企業にも理念があります。経営理念、企業理念、ビジョンなどと言われるものです。
理念とは自社の存在理由や目指す状態を言語化したものであり、企業活動の目的と言えます。つまり、企業に働く人にとって理念の実現こそが働く目的になるというわけです。そして、どの理念も「世の中に貢献する」という想いが表現されています。
経営の神様と言われる松下幸之助の「企業は社会の公器である」という言葉は、まさにそのことを物語っています。志に燃える創業者が理念を掲げ、その強い想いの下、世の中の役に立つために社員と共に懸命に働いたという歴史を持っている企業は多いことでしょう。その創業者の強い想いを、どのレベルで継承していくかが企業存続の力になると私は考えています。
「一生懸命に受け身」のからくり
理念実現を目的とした企業活動は世の中への貢献ですから、徹底すればするほど業績が向上します。組織は拡大し、効率よい仕事のやり方(仕組み)も確立されていきます。すると、経営陣は仕組みを回して効率良く業績を上げようとします。その際に、最も陥りやすい罠が、仕組みを回すことが目的となり、理念の実現という本来の目的を見失うことです。
その罠に陥った企業は、理念を実現しているかどうかよりも、仕組みをきちんと回しているかを基準に社員を評価するようになります。社員たちは、評価を得るために上から言われたことを忠実に実行することに注力します。これが、「一生懸命に受け身」のからくりです。社員は一生懸命働いているのに、企業活動は本来の目的からずれていくという現象が起きるのです。
全員が「理念実現のために働く」と答えられる組織へ
「一生懸命に受け身」組織の主な特徴のひとつは「社員が働く目的や意味を考えなくなる」ことです。
仕事をすることがお客様にどのように役に立つのか?理念を実現するために何をするのか、どのようにするのか?などを考えることなく、ただただ言われたことをやり遂げることが自分の任務と信じて仕事に取組むのです。これが、考えない社員、主体性のない社員を生み出します。経営陣や人事の幹部が「我社の社員は主体性がない」とか「もっと社員に主体性を発揮してほしい」と言い始めたときは、組織が本来の目的から逸脱し始めている兆候かもしれません。
「なんのために働いていますか?」
この問いにすべての社員が理念実現という点から働く目的を異口同音に答える企業を一社でも多く創り出すことが私の働く目的です。