私は一枚岩会議Ⓡ実践者です

「私は何者なのか?」というアイデンティティに関する問いに答えるのは難しいものです。その答えとして名前や肩書や属性などは表面的なものであり、もっと奥にどのような役割意識をもって生きているのかを人々は知りたがるのです。
この数年、私が講演などをするときに自己紹介のための最初のスライドに名前の次に書くのは「一枚岩会議Ⓡ実践者」です。「一枚岩」も「会議」も普通の日本語ですが、「一枚岩会議」という単語は株式会社日本チームコーチング協会が商標登録をしています。
さて、「一枚岩会議」という命名をした理由ですが、そこにはストーリーがあります。
巨大組織の誕生とトップの危機感
2012年1月1日にキリンビール株式会社から販売部門が独立して、キリンビールマーケティング株式会社が誕生しました。社員数は3500人を超え、売り上げは前年の実績を引き継いだとしたら7000億円以上という巨大な組織が成熟産業であるアルコール飲料業界に誕生したのです。
初代社長はメルシャン株式会社の社長を務められたこともある植木宏さんでしたが、相当な危機感を抱いていらっしゃいました。工場を各地に持つビールメーカーではありませんから、「赤字になっても現金に換える不動産などの資産を持っていない。社員を解雇する以外に選択肢がない」ということを腹の底からわかっていたのです。
チームコーチング導入の決断
現在、株式会社日本チームコーチング協会の社長を務める山下勉は、植木宏さんからの信頼が厚く、当時は社長直結の営業力強化推進室長でしたが、彼がゲートキーパーとなり、新会社にチームコーチングを導入することを推してくれたのです。
植木社長は資産のない新会社では人的資本がもっとも大切だという信念の持ち主でしたので、経営幹部を育成したいという気持ちもあり、チームコーチング導入への道を開いてくれたのです。
「営戦」から「創業経営会議」へ
そうして4月、植木社長はじめ15名の経営陣が集まり、新会社のための戦略会議を2日間で行いました。
その中で参加メンバーから「営戦」という言葉が何度も出てきました。「営戦」とは何を意味しているのかを聞くと、「営業戦略会議」のことだと営業本部長が教えてくれました。昨年までキリンビールの営業部門の管理職であった彼らにとっては「キリンビールの営業戦略会議」を継続している意識だったのです。
私は「すでに別の会社になりました。そして今までとは異なり、振り返っても皆さん以外に責任を取る人はいないのですから、会議名を変えましょう」と問題提起したところ、山下の提案で「創業経営会議」という名称に変更されました。
「一枚岩会議Ⓡ」誕生の瞬間
その最初の2日間の「創業経営会議」の内容はここで明らかにはしませんが、2日目が終わり、全員が意気揚々と会議室を出ていくのを見送った植木社長が私のところにご挨拶に来てくれました。
植木さんは自分の両手で私の手を取り、「こんなに早く一枚岩になるとは想像もしていなかったです。本当にやって良かった。ありがとうございました」と感動した面持ちでおっしゃったのです。
その時に私は、経営者は経営幹部が一枚岩になることを望んでいるのだということを知りました。私たちがリードしているチームコーチング・メソッドは経営陣を一枚岩にするのだということをお客様の言葉を通して理解することになったのでした。その日です。「一枚岩会議Ⓡ」という名称を思いついたのは。
その後、私たちはキリンビールマーケティング株式会社が2017年1月1日にキリンビール株式会社に統合されるまで、全国の統括本部で「一枚岩会議Ⓡ」を実践することで、優れたビジネスリーダーたちを育成するご支援をさせていただきました。