長寿企業から学ぶ
ネーミングライツ
筆者は今年、名古屋で「NLPプラクティショナー認定コース」というセミナーを半年以上にわたり開催してきました。名古屋には公共施設が数多くあり、主催者にとってコスト的にもありがたい都市なのです。
そこで数回使用した施設が金山駅から徒歩数分のところにある「Niterra日本特殊陶業市民会館」です。名古屋市民会館のネーミングライツを得た会社が自分の会社名を建物に着けていたのです。筆者にはあまり馴染みのない社名でした。
創業から150年
先日、日本経済新聞に2ページ見開きで広告記事である「森村150周年特集」が掲載されていました(令和8年10月27日)。その紙面に「Niterra日本特殊陶業」を発見しました。
源流は1876年(明治9年)創業の森村組(現 森村商事)だと分かりました。創業者である森村市左衛門が定めた「我が社の精神」には、「海外貿易は世界中の人々と共に平和と幸福を実現し正義と人道を追求する企業」であると記されていたようです。
創業から10年ほどして取扱商品の中で陶磁器、特に食器類の販売が好調だと分かると西洋式の食卓用洋食器の国産化に着手します。これが1904年の日本陶器(現 ノリタケ)創業に繋がります。
これ以降、森村グループはセラミックスをコア・コンピタンスと位置づけ、1917年創業の東洋陶器(現 TOTO)へと発展します。その後、日本の電力需要の高まりに商機を見出し、1919年創業の日本碍子(現 NGT)を生み出します。その日本碍子は自動車などのエンジンに用いるスパークプラグの製品化に成功した後、その事業部門を日本特殊陶業(Niterra)として1936年に独立させます。
何が成長のポイントだったのか
森村商事から分離独立したノリタケ、TOTO、NOK、日本特殊陶業は4社とも東証プライム市場のガラス・土石製品に分類されている上場企業であり、現時点で市場の評価は高いです。グループの成長の要因だと思われるものを5つにまとめました。
①「世界中の人々と共に平和と幸福を実現し正義と人道を追求する」という創業の精神を守ってきたこと。
②市場に芽生えた変化、ニーズをいち早くとらえて、時流を読んで新規事業に参入してきたこと。
③セラミックスをコア・コンピテンスと位置づけ、技術革新を連続的に成し遂げてきたこと。
④新事業を分離独立させて「一業一社」主義を取ることによって経営資源を集中させ、事業効率を向上させたこと。
⑤グループ各社はときには競合する分野もあるけれど、お互いにもたれあうことなく、それぞれが独立して成果を生み出している根底に社会貢献を意図する創業の精神が生きていること。
さて、ご紹介した森村グループは今年、めでたく150周年を迎えられたようですが、実は日本には創業から100年以上を経た企業が世界一多く存在しているということをご存知でしょうか。
長寿企業大国である日本
東京商工リサーチの2026年調査では、2026年に100周年を迎える3,154社を含めて4万9,158社となっています。これは世界の100年を超える企業の50%をやや超える数になるようです。
200年を超える企業となると、世界の65%を日本の企業が占めています。都道府県別にみると長寿企業が一番多いのは京都府です。これは太平洋戦争の時期にアメリカ軍から爆撃されなかったことが要因のひとつでしょう。
全国各地が無数の焼夷弾によって焼き尽くされたにもかかわらず、なんと日本は世界で長寿企業数が一位なのです。
筆者は長寿企業に関心があり、研究しています。チームコーチングを実施する企業のほとんどはオーナー企業であり、長寿企業であるためにはどうすればよいのかという問題意識を持っています。
さて、世界で現存する最古の企業は日本の金剛組です。金剛組は社寺建築のプロフェッショナル集団として業界でも特別な存在です。
世界で最古の企業
金剛組の歴史は、578年に聖徳太子が、我が国初の「官寺」として現在の大阪市天王寺区に四天王寺建立を発願し、百済から3人の工匠を招いたことに始まります。そのうちの一人、金剛重光が金剛組の創業者です。
8代目金剛重則の時代になると、四天王寺は重則に宮大工の称号としての「正大工職」を与えています。「正大工職」を名乗れるのは四天王寺の仕事を任される金剛家の当主だけでした。この最高峰の技術を有する家職の誉れ高い称号は現在の41代目に受け継がれています。
現在、1448年続く金剛組は2005年に深刻な経営危機に陥り、ついに「家督相続」を断念して髙松建設の支援で傘下に入りました。「金剛組をなくしたら大阪の恥やで」と支援を決めた髙松建設のバックアップを得た経営陣と金剛家に仕えてきた専属宮大工集団が、金剛組の象徴として金剛家を仰ぎ、一丸となって技術の伝統を継承しています。
ところで、金剛組が長く続いている理由は何でしょうか。
①高度な技術の伝承。自然災害による大規模な被害により何度も四天王寺の伽藍を再建する機会がありました。そこで代々の先達の仕事をお手本にしながら、数十年にわたる工期を要する伽藍の再建を何度も任されたことが、結果的に高度な技術の継承につながりました。
②家督の継承を血脈に頼らなかったこと。後継者は必ずしも血縁上の長子に限定されず、事業の継続を優先して有能な娘婿や腕のいい宮大工を養子に迎え、家督を継がせてきました。最もふさわしい人物を選ぶという合理的判断がなされてきたことが要因として大きいと思います。その結果として、技術者は技術に専念し、経営は経営に適した人間が担うという分業協力関係ができてきたので現在の高松建設傘下での事業継続に繋がっていると思われます。
③ニッチな世界でトップであるだけではなく、業界からも尊敬される実力と地位を得たこと。近年になって一般コンクリート建築も手掛けた時期はあったようですが、原点回帰して社寺建築に専念しています。その結果として高度な技術を持った宮大工が育ち、金剛組の仕事の質から学ぶことで地方の仕事でも安心して任せられる一定数の宮大工が存在しています。
④金剛組に伝承される「16の教え」というスピリットが体現されていること。創業の精神が息づいているのは長寿企業の特徴だと言えるでしょう。その精神を自分事として受け止めている先輩格が後輩を指導しているという伝統的社風があります。
ロンジェビティ(長寿)
最近、「Longevity(ロンジェビティ)」という単語を耳にするようになりました。それは、「長寿」「長生き」「寿命」を意味する英語です。
現代の医療や健康、ビジネスの分野では、単に物理的に長生きすることだけでなく、「心身ともに健康で、活動的に人生を送れる期間を最大化すること」という意味で広く使われています。つまり健康寿命を最大化するというアイデアです。そのための生活習慣や食事、あるいはキャリア開発に関する文献が多く出版されています。
筆者自身も「アンチ・エイジングよりもポジティブ・エイジング」を標榜しており、人生の後半の後半をどのように生きていくのかを実験中です。そうはいっても今のところ人間は100歳くらいが限度でしょう。しかし、組織にすると100年以上継承される可能性があります。そこにロマンを感じませんか。
もしも読者の皆さんが所属する、あるいは創設した組織が長寿組織に成長する可能性があるのであれば、積極的な意図をもって今から手を打つという選択があるのではないでしょうか。
