事業承継における葛藤への対処
2025年6月、北海道にて開催された第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会2025に参加させていただき、講演をいたしました。
講演のタイトルは『専門職の枠を超えて、医療現場にとって大切なことのアラインメントをとると組織は機能する』です。同時間帯にいくつもの企画が開催される中で100名を超える方々にお聞きいただきまして、たいへん感謝しております。
講演後、ご質問いただいた中で印象的なものは以下の2つでした。
①来年の4月、父からクリニックを継承しますが、どのようなことに取り組んだらいいでしょうか?(20代前半の若手の医師の方)
②息子か娘に病院を継がせたいが身内なもので関係が近すぎてうまくいっていない。良い事例はないか?(60代後半の年配の医師の方)
というものです。医療の分野にも事業承継の問題があることを知りました。
承継の現場で見える「覚悟」
長野県松本市の北部にあるO社は現在3代目が経営しています。ここに1枚岩会議Ⓡで入りました。
以前の3代目は、2代目からダメ出しばかりされていたようです。3代目が出してきたミッション、ビジョン、バリューを掲げて取り組む案や新たな戦略、目新しい制度など、ことごとく反対されたそうです。それが一枚岩会議Ⓡのセッション1を終え、会議の中で作成した2025年度の方針を発表したときは、驚くほど何もコメントがなく、拍子抜けしたと言っていました。
それがなぜ実現したのかというと、3代目が方針ともに「自分の現状」を伝えたためではないかと思うのです。冷静にいまを表すと「自分は会長(2代目)に甘えていた。覚悟がなかった」と。
歴史から学ぶことが次世代の力になる
兵庫県神戸市で行われたT社の中期経営計画合宿では、「過去から学ぶ」と題して、これまで経営されてきた初代から4代目までの発言やインタビュー記事、社内報から当時の経営者たちが何を考え、決定し、実行してきたから今があるのかを5代目を含む現経営陣が学んでいきました。
そこには5代目がこれまで受け継いで知っているものから初めて目にするもの、歴史の中の悲願の実現や日の目を見なかった製品、途中で挫折したプロジェクトなど、成功と失敗の歴史がありました。
そしてその時の歴代社長の感情の吐露もありました。そして現経営陣は、「この学びの機会があってよかった」と話していました。
感謝とリスペクトが葛藤を乗り越える鍵
株式会社東京商工リサーチが倒産企業の平均寿命を毎年発表していますが、2024年は23.2年だったそうです。会社を興して事業を継続していくのは難しいものです。そんな中、その会社を代々継いでいけるというのは幸せなのだと思いますし、その過程では、並々ならぬご苦労や困難、葛藤があったものと容易に想像がつきます。
では、会社を渡す側と継承する側でどんなことがあったら事業承継はスムーズにいくのでしょうか。その一つは、渡す側の「感謝」と継承する側の「リスペクト」ではないかと思うのです。渡す側には「子供なんだから継承して当然」という気持ち、継承する側は「受け継ぐのだから、あとは好きにやらせて」みたいな気持ちになりがちです。
「親しき中にも礼儀あり」です。本当は心の中にはあるはずです。心の中にあることをわかちあえるようになると、人は強くなれるのではないかと思うのです。
「継いでくれてありがとう」
「ここまで会社を大きくしてきたことを本当に尊敬しています」
同族企業やファミリービジネスが多い日本において、事業承継における葛藤への対処は避けて通れない課題ではないかと思います。
